春  終


 カリカリと大風に葉っぱが引きずられている音がしていたと思ったら、いつの間にかそれは雨が窓を打ちつける音に変わっていた。あまりに激しく雨水を叩きつけられるので、ガラスはピシピシと金属のような音を立てている。ベランダは既に水浸しで、隙間に閉じこめられていた小さなゴミ達は、まるで生き物のように泳がされている。時折走る閃光は、少し後らせて小さな振動を連れてくる。まるで呼吸をするように強弱をつけては雨が落ちてくる。窓を閉め切ったこの部屋は、雨のノイズのせいで胎内にいるような錯覚にさえ陥る。
 ふと私は、外に出たいという衝動に駆られた。私は玄関に立てかけてあったお気に入りの傘を掴み、思い切ってベランダの窓を開けた。思っていたよりも肌寒い風が雨を運び、私の足とサンダルはあっという間にびっしょりになった。さっきよりも大きく聞こえる雨音の中で、私は傘を差しながら歌った。傘の上ではバリバリと不規則に雨の音が響き、声量のない私の歌はもろくもかき消される。
 少しずつ遠のく雨雲の隙間をついて、黄金色の太陽が沈み始めていた。気が付くと、私の目からはいつの間にか涙がこぼれていた。そうだ、私はずっと泣きたかったのだ。台風の代わりに春の嵐が来た。澄んだ空気が肺に流れ込む。