銀色の葉




 家から少し離れた所に古い神社がある。
 敷地も広く、街中に忽然と森が広がる様子を見る限り、たぶん古くからある。
 神社の前には大きな学園があり、学生も多い。
 しかし私が見る限り、学生はその敷地内に近づかない。
 森に囲まれ、人気もないので、格好のたまり場になりそうな気もするが、
 学生達は何故か寄りつかない。
 しかし分からないでもない。
 鬱蒼と木々が茂る森は、昼間だというのに異様な程重圧感がある。
 それは他の森には感じられない、独特の空気だ。
 私も初めてここに訪れた時は「絶対にこの森には天狗がいる」と思った程だ。
 何一つ花の姿が見えないのに、甘い花の香りが森に漂っていた事もある。
 この森はまさに生き、呼吸している。
 例えて言うなら、森というもの自体が一つの生物であり、
 森に入るという事は、その生き物の腹の中に入るという事に等しい。
 私も滅多に足を踏み入れない場所だが、たまたま雨の散歩を思いついてしまった。
 雨に濡れた森は美しいだろうと想像してしまった。
 そして足は森へと続く道を歩いていた。
 いつものように、その森からは独特の威圧感がヒシヒシと伝わってくる。
 ここが神社という事もあるせいか、そこの空気は神聖な味がする。
 テクテクと歩いていると、不意にカサ、コソと音がする。
 何だろうと足を止め、注意深く観察していると、
 私の目の前にあった雨に濡れた落ち葉のひとつが、くるん、とひっくり返った。
 はて?、と思いまた観察していると、またひとつ、くるん、とひっくり返る。
 先程の音は、葉っぱがひっくり返った音だったらしい。
 よくよく見ていると、あちらでも、くるん。こちらでも、くるん。
 森の小道で、葉っぱがひっくり返る。
 ははあ、これは妖怪の仕業だな、と思った。
 手際よくひっくり返すので、「枕返し」の小さいのかとも思ったが、
 考えてみると、ここは森なので、森の精霊達かもしれない。
 しかし実に楽しい。
 森を抜けると、もう葉っぱもひっくり返らない。
 不思議なものだ。
 振り返ると、雨に濡れそぼった小さな葉っぱ達は、銀色に光っていた。